木村俊介「漫画の仕事」かんそうぶん。

木村俊介「漫画の仕事」を読み終えた。ただしくは発売されてすぐ読み終えて、読み返し続けている。

4人の漫画家へのインタビュー集なのだけれど、インタビュアーとしての木村の言葉はでてこない。作家が一方的にしゃべっているような構成になっており、知りたい、触れたい作家の存在、息遣い、実在するんだと体感できる。この構成がすばらしく、何度でも読み返せる、読み返したいと思わせる、欲を抱かせる引き金になっている。

漫画においても、坪内逍遥小説神髄」にあるように人と時代性が描かれていてほしい。とりわけ連載が中心となる漫画だと、その時代性は(後から読むとキツいけど)どうしようもなくまとわりついてきて、そこがとりわけ漫画の価値だ(偉そうなこと言うけどさ)。

紹介されている作家はそれぞれが独自だ。この中にいくえみ綾がいるのが、もう、すげぇ。すげぇ。海野つなみもすげぇ。まだデカいの当ててきた。荒川弘はすげぇ。この本の趣旨にもっとも合致している。漫画を「経営」している。すげぇ。

その中の冬目景

彼女へのインタビューが読みたかった。たぶん、この作家の中で、唯一、漫画を描くしかなかった人だと思えたから。認めたくないけれど、私はそうあってほしかった。のかもしれない。

だから、彼女のインタビューはとてもかなしさとさみしさをまとっている。ひとつ、ひとつの言葉は他の作家からも出てきている、共通しているのだけれども、その言葉を選んだ心理がとても、さみしくみえてしまうのだ。

それを経て、昨日売りのコミックバーズが休刊、電子書籍移行が発表された。先月号にそんなの全然書いてなかったじゃんか……。「空電ノイズの姫君」も突然の回想話で、第一部完となった。

そこまで読んだとき「漫画の仕事」のインタビューを思い出した。

インタビュー中で「いつまで、できるのか」に言及しているのは冬目景だけだったのを思い出した(と、同時にとぎれず誘いがあるので幸運だとも語っているのだけれども)。

あー、もう。

「空電ノイズの姫君」が「いつかどこかで」またよめることを願っています。なんて、悲壮に思っててもすぐだったりしないかなぁ……。

「好きって言えない彼女じゃダメですか?」がさすがの玩具堂だった。

 

ひさしぶりの玩具堂の新刊「好きって言えない彼女じゃダメですか? 帆影さんはライトノベルを合理的に読みすぎる」。こうしてまた玩具堂の新刊が読めるだけでうれしいのですが、内容がこれまた好みで、いろいろ紆余曲折あったのだけれど、戻ってきた感覚でした。いいのよ? それは。「子ひつじ」以来の学園モノなので、作者としては葛藤があったのかな、なんてかんぐってしまいますが。いいのよ? それで。

物語としては、北村薫ばりの文学ミステリです。ライトノベルジャーゴン、ハイコンテクストを文芸部の帆影さんが人類の歴史へと落とし込んでいく、ダン・ブラウンばりの謎解き……! ライトノベルが紐解く人類進化の歴史の謎とは……?!

というのはさておいて。

無口読書系ヒロインがキマシタワー! 玩具堂の言葉使いの才とあいまって、そりゃあもう、本よまな……! という気持ちなること請け合いです。

冒頭の引用は「クローディアの秘密」。調べてみたところ日本語版は岩波少年文庫版しかないんですね。これ、めずらしく邦題がいいんですよ。

「クローディア」は退屈から家出した女の子がメトロポリタンミュージアムでこっそり暮らすお話です。私は深夜の噴水でコインをあつめるシーンがどきどきして印象的でした。

今回のその引用はおそらく異世界転生モノへの言及かなー、と。異世界家出。「86」の「高瀬舟」、「ソードアートオンライン」の「トロッコ」、「読者と主人公と二人のこれから」の「第七官界彷徨」、「三角の距離は限りないゼロ」の「スティル・ライフ」とか、引用が好きなんですよね。読んだ本が出てくるとちょっとうれしい。なんですが、章題、本文の引用、パロディっぽいのが見えるんだけど、ぜんぜん元ネタ判らないのがつらいっ……。

というのも、全部さておいて。

最後の最後。ホントに最後のエピローグがめっちゃくっちゃいいんですよ、これ。読み終わると、ホウ、と一息つきながら、またページを戻ってそこだけ読んでしまいました。やっぱり、友達といえばあだ名だとおもうんですよ、私は! ホカちゃん……! わたしも砂糖を吐くよ……!

つづきはよ……!

紫陽花の季節に「あさがおと加瀬さん。」を見るということ。

公開中の映画「あさがおと加瀬さん。」を見た。2回見た。

昨年公開の短編アニメの延長線上にあるOVAの劇場公開なんですけれど、先の短編アニメはミュージッククリップだったのですが、今回は物語がある! ぜんぜんちがう! のです。

このアニメ化のうれしさの中でも、とりわけ加瀬さんの声が! もう、ほんとに、バリネコofバリネコ(個人の見解)にしか聞こえなくって、最高です。

内容は「あさがおと加瀬さん。」のタイトルですが、原作の「おべんとうと加瀬さん。」と「ショートケーキと加瀬さん。」収録の短編を時系列に並べ替えて、間を付け加えた感じ。山田視点からの風景だと思える、水彩画の世界に、加瀬さんが登場すると、その視界に降り注ぎ、はじける「加瀬さん粒子」がとても、とてもまぶしいです。山田からみる加瀬さんは、こんなにも輝いていて、一瞬で世界をかえるのだなぁ、と。その微熱が伝わってきます。ほんとに、ちょっとした、暖かさ。一瞬で砕けて消える暖かさなんだけれども、途切れず降り注ぐ、暖かさ。そしてなによりまぶしい。さっきまで平坦だった薄い色の世界が一瞬で色づく。原作まんがも山田よりではあるのだけれど(Wings本誌連載はなんとなく加瀬さん視点)アニメははっきりと山田の世界。

ああ、もう、ほんと、この原作との「調子」の違いに価値があると思うのです。コマのおおきさや、キャラの崩し方で調子を作るまんがとは違うのは当然なんですが、アニメは声、音、明暗とかちょっとしたことだったり、明確な演出だったりで、山田の世界を作り上げてるのです。

続編あるのかなぁ。近作ですけど「粉雪と加瀬さん。」のカメラを構える山田のシーンが大好きなので、動画にならないかなー、なんて期待してます。あと、ぜんぜん関係ないけど、エンディングスタッフロールのフォントはなになんだろう……。手書きなんてのはありえないんだろうけど、風味のあるフォントで、見終わった心地よさに一役かってると思うのです。

「見上げると君は」が好みすぎる

evening.moae.jp

背の高い女の子、大好きです。

イブニングの新連載「見上げると君は」が好みすぎて、毎回楽しみ。といっても、まだ2回だけど。この第2回がここまでで第1回にしてほしかったと痛烈に願い、天を見上げるほどに、面白かった。

出てきた3人とも、それぞれに「心の傷」をもってそうに思える、ただ騒騒しいだけじゃない物語の始まりを感じさせます。

なにより丁寧さ。P12のギターのアップのコマで、弦の太さが書き分けられているところ。ここ重要です。

熱狂をもって「ライアーバード」が終わってしまったその余韻のうちに始まった、ギターとボーイミーツガールの物語。期待しかありません。つづきはよ。

「行列のできる殺人事件」について語る。

「うまく言語化できない。情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。でも、聞いて」

涼宮ハルヒの憂鬱

gamemarket.jp

ゲームマーケットの新作「行列のできる殺人事件」をプレイする機会に恵まれた。いたくおもしろかったので、一文を起こそうと思ったのだけれど、ルール説明が言語化しにくいったらありゃしない。

だが、書くのだ。

 

コンポーネント

1,3,5,7,9のランクをもった容疑者カード

0、2,4,6,8のランクをもったアリバイカードその1(カードの背に×)

1行、2行、1列、2列を示すアリバイカードその2(カードの背に○)

被害者ミープル
記録カード

ルール

  1. 各プレイヤーにはアリバイカードその1、その2が1枚づつ配られる。当然ながらこれは非公開情報。
  2. スタートプレイヤーから時計回りにプレイヤーは以下の2つのアクションからいずれかを実行する。
    ランダム推理:5枚の容疑者カードをシャッフルして2行2列に並べて場を作る(スタートプレイヤーは場がないのでこれしか選べない)。
    セレクト推理:現在の場に並べられた2行2列+置かれていない1枚の容疑者カードを任意に並べ替えて2行2列の場を作る。
  3. 各行、列ごとに容疑者カードの数字を加算する。2桁の場合は下1桁を採用する。
  4. 全プレイヤーは自分のアリバイカードの組み合わせと場の計算結果を確認し、条件を満たしていれば○カード、満たしていなければ×カードを出す。
    手番プレイヤーが選択したアクションがランダム推理であれば手番プレイヤーはこの結果判定に参加しない。
  5. これを繰り返し、全員のアリバイカードを充足する2行2列を言い当てたプレイヤーの勝利。プレイヤーはこの宣言はいつおこなってもよい。
    つまりフレーバーから解釈すると。
    プレイヤーが持っているのはアリバイカードのため、これを満たす2行2列の場にでている容疑者カードはアリバイが成立しており、のこった1枚が犯人となる。

もうおわかりいただけただろうか。なるほどさっぱりわからんである。

箇条書きで説明すると。

  • 各プレイヤーは1行、2行、1列、2列のいずれかを示すカードを持っている。
  • 加えて0,2,4,6,8のカードを持っている。
  • 例としてあげると、1行と0のカードを手にしたプレイヤーは「1行目の容疑者カード2枚の加算結果の下1桁が0となる」という情報を持つ。
  • 他プレイヤーも同様の情報を持つため、他プレイヤーのそれぞれの持つ行、列の加算結果を充足する2行2列のカードの組み合わせを推理する。
  • が、しかし。プレイヤーに配られるアリバイカードその1は5枚あるので、1枚配られないカードがある。したがってプレイヤーの1人は意図せず偽証をしている可能性がある。そしてそれは自分かもしれない(残念ながら)。その場合は偽証しているプレイヤーのアリバイカードを残っている1枚と交換すると成立する。
  • ランダム推理で自分の情報を隠して賭けるのもよし、追い込みでセレクト推理をするもよし。
  • 場札がわかったら宣言後、並び替えと判定をおこない全員が○を出したら勝利。

インストされてもさっぱりだったのだけれど、2手番くらい進んだころにルールと目的が理解できた瞬間に「エウレカ!」と叫びたくなった。ほんと突然ルールが理解できた。カードに書かれたすべての数字の意味がわかった。カードデザインが丁寧すぎる。エウレカ

容疑者カードは奇数。手元のアリバイカードは偶数だ。アリバイカードから1枚だけが完全にシロだとわかる。たとえばアリバイカードが0なら5は絶対にシロだ。1と9、7と3の組み合わせだけが0。だから容疑者だ。つまりあなたの手札の行ないし列に5のカードは存在しない。そして組み合わせは前述の2つしかない。

その調子で他のプレイヤーの回答と組み合わせて2行2列をくみ上げよう。

今回は1周したら全プレイヤーの手札と偽証も特定でき、あとは2行2列をくみ上げるだけ! までいけた。ここがホントにおもしろかった。個人的体感としては詰め将棋の15手詰めを考えているのに似ていた。途中呼吸を止めていたんじゃないだろうか。いや、気づけば簡単だったんですけどね、ほんと。今思うと。

で、私の前に他プレイヤーが見事正解で終了でした。あひょー。

慣れてくると1周で回答が出そう。その点からプレイ感覚は「量子カノジョ」に近いか。すげー面白い。しかも500円。そうそう、ミープルは場のカードの中央においてください。天地を示します。被害者だけど。

 

ゲームマーケットでは完売だったようなので、持ってる奴を探せ!

あの宇宙よりも遠い場所で待ってるだけで△

宇宙よりも遠い場所」「ゆるキャン△」「Just Because!」「あの夏で待ってる」をどかーんとまとめて見終えた。

ゆるキャン△」はなんどでも見返せる。「Just Because!」はとてもつらい。「あの夏で待ってる」はイチカ先輩の力で見返せる。

宇宙よりも遠い場所」は相当整えてからじゃないと見返せない。3話以降は毎回泣かされっぱなしだった。その頂点が第9話。FM音源のパラメータでたとえるとTLがここだった。音量の絶頂。そのあと10話、11話、12話がSL。ゆっくりと音量が下がっていく。そして最後13話。もうずっと涙が止まらなかった。これかいてても思い出して泣ける始末。

第9話のラストシーン。人生に「ざまをみろ」といえる瞬間があるだろうか。言うために何かを続けていけるだろうか。なにに乗ってもいけない、その場所へいけるだろうか。

10、11、12は登場人物それぞれのケリつけの話。しかし、この中に主人公は含まれない。たぶん、キマリだけは明確に問題を持っていないからだろう。でも、友達と一緒になって泣いて笑って、落ち込んで。後悔しないために行動し続ける。ずっとずっとキマリは目標を達成し続けていたんだ。

Just Because!」「あの夏で待ってる」は「よりもい」と比べると登場人物たちの表情がすくないように思えてしまった。

友達っていいなとつくづく思った。過去に読んだ「もっとも強力な友達は戦友だ」との一文を思い出した。戦友にはなにもかもを見せるからだろう。

そして13話のラストシーンである。ここまで見たらアライブ連載中の漫画版「よりもい」を読んで欲しい。漫画版はアニメの隙間を埋めるような物語で、めぐっちゃんのいやなところをずっと掘り下げている。そして今月があのシーンだったのけれど、来月ははたしてどっちだ。

いまとなっては「ここから、ここから」を聞くだけで泣ける。

冬目景原画展に行った

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冬目景原画展 冬・絵展 vol.9

4年ぶり開催の冬目景原画展に行った。青山。青山ですよ。青山っぽいはたらく人がいっぱいいて、こうした努力で青山は守られているのだと感じました。

この4年間で「イエスタディをうたって」が完結し、「黒鉄」が連載再開(最初からやりなおし)となったりと一区切りのような、片付けにはいったかのような印象を受けました。

展示内容は連載中の「空電ノイズの姫君」「黒鉄・改」「旧車GIRLS」からと、これまでの連載、展示会から。

羊のうた」1巻カバーイラストなんて20年前の油彩(たぶん)があったり、旧「黒鉄」のこれも1巻カバーイラストも。「黒鉄」はくるみのイラストだったので、背の部分が割れてたり(もともとだと思うけど)して、時のすぎたるを見たような気持ちでした。いやさそれにしても「羊のうた」1巻のカバーイラストは、原画と書影が比較できて、その色の違いというか、やっぱり時間がたったとおもえるのよね。

展示でいちばん心引かれたのは「空電ノイズの姫君」#16扉の見開き。カラーだっけか。表紙&カラーだったような記憶。それが単行本だと2色+背景ありに差し替えられていて、それもまたそれまでのカタログ写真のようにばっちりキメた絵ではなくて、これだけ日常のスナップ写真のような一瞬が書かれている。うたう夜祈子さんと、エアーギター中の磨音の2人のすがたに、物語の将来を期待したり。連載はいまちょっとつらいところなだけに、この1枚が思い出にならないことを祈るばかり。この1枚だけずっとみてた。ほんとに。他に人がいないのをいいことにずっと。

2巻のカバーイラストは色使いが印象的。本だとほとんどわかんないのだけれど、制服の光があたるぶぶんに、これでもかと明るい白が盛ってあるんですよ。他のバーズ表紙も同様で、制服の光沢の部分にガシガシ白が盛ってある。それも、浮くような、画材のもともとのような、白。こういう絵に載せた作家の意図、思いは、原画を見ないと気づきも想像もできないな、と足を運んだ価値が1つふえたような気持ちに。

どれもこれも、どの絵も、記憶に「カリッ」と音がするような1枚ばかりでした。なので、いまのうちに行ったほうがいい。ファンレターも書いたほうがいい。

ではまた。4年後に。